「ネネトの嫌いな先生」についての、こまごまとしたメモ書きエントリーです。
性質上どうしても内容のネタバレを含みます点ご了承ください。
とにかく難産でした。
まずタイトルが決まらない。
いくつかのシーン候補から自分が描きたくなるようなタイトルをまず決めて、そこに収斂するようプロットを練っていくタイプなので、プロットの段階でタイトルが決まっていない事態が不安で仕方がない。
2月に間に合わせるためにはとにかく時間がなく、プロットも中途半端なまま見切り発車でネームを描き始めました。
描いてみることでネネトが思っていたよりずっとハッキリした性格だったことがわかり、勝手に「きらい」と言い続けてくれたおかげで無事タイトルも決定、構成も確定した、という具合でした。
しかし内容はだいぶん膨らみまして、28Pくらいの本で→36Pに収まるかな……→むり、44P! これ以上は2月に間に合わない! という中でコマを節約しながらなんとか44Pの本に収めたという経緯があり、読んで下さった方は感じられたかと思いますが、最初から最後までだいぶん駆け足気味の話となってしまいました。
いつもの調子なら60Pくらいの本として出していた内容だったかと思います。
各種説明もコマの節約のためかなり省かれてしまい、読者の読解力にかなり依存した構造となったのは反省点……ではあるのですが、ウルディラシリーズをあえて手に取ってくれる方なら全然問題ないかな、という読み手への一方的な信頼もあって、この形での発行となりました。
●シド
彼の長い人生の中で医師として遇されるのは何度目かになるタイミングですが、この頃にはもう人の命にかかわりたくないと考えていたので、このような煮え切らないかんじに。
あまり真面目に医療情報にキャッチアップしてないのが、最後のあたりのまだ修行中のネネトに見抜かれている始末です。
●ネネト
亜麻色の髪に緑の瞳。
作中に3回服がかわってますが、それぞれ4~5歳、15歳ごろ、18歳ごろを想定しています。
18歳ごろのネネトの服は、先生に久しぶりに会うので気合をいれて、以前の服をスカートとヘアバンドにわざわざ仕立て直した上で里帰りしてきたという衣装設定があります。
●没エピソード
最後にシドが彼女に残した処方箋、はじっこに「ネネトのお茶」と、彼女が庵にくるたびにシドが淹れていた彼女の好きなお茶の処方が残されてます。
ノコに何か書いてあるのか訊かれたとき、その事については黙っていましたし、彼女はそれをみて余計やるせなくなった筈。
ページの都合でシドがお茶を出すシーンをいれられなかったのと、最後のただでさえ長いモノローグが冗長になりすぎるので省きましたが、気に入っているエピソードでした。
捨てられない自分に苛立ちを覚えつつも、ネネトはきっとずっと、唯一自分の名前のみが正しく記された処方箋の紙を大事に側に置いたことでしょう。
●ふたりのこと
ネネトの想いが届く可能性は始めから無く、彼女もそれを知るほどには聡く、その聡さを愛したシドは彼なりの最大限の丁寧さで彼女に応じていたという点で、ふたりきりの髪結いの時間は、ほかにはない緊張感と甘さに満ちたものだったのではないのかと。
シドがふらりと消えたのは、変わらない姿で一箇所にとどまることの時間的な限界が一番の理由ですが、成長したネネトを女性としてみないでいられる自信がなかったから、という彼らしい弱さもあったのではないかと思っています。
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以下、これまでにフォームからいただいた感想への回答など
●想定外の仕上がり?
一番大きな箇所は背表紙です。三つ編み枠の外側に白インク20%のベタ、背表紙に白インク100%の文字を乗せたんですが、紙の色が思ったより浅かったのもありほとんど見えなくなってしまいました。
制作側の仕上がりのイメージはこんな感じです。
データ上ではシドの髪にもツヤがのっていました。こちらは白インク80%の地に100%のツヤベタをのせています。刷りあがり、全然わかりませんね。
不透明インク、むずかしいです……!
●草木についてカタカナの方は実在の名前のもじりなのでしょうか、オリジナルでしょうか。似非莧に「シン」がつくのでオリジナルかなあと思っております。本編9巻で「Woldirous Sin」の意味が明かされた記憶が蘇りました。
薬草の漢字部分は「似非莧」以外は実在の植物で、ある程度該当の症状に効く筈のものを使っていますが、実在にこだわっているわけでもないです。
カタカナの方、つまりラ・シアナ世界の音は好きな音やリズムを当てはめています。とはいえ重要な意味を持つものに関しては書き留めているので、「似非莧」をシンノジャンと読ませたシーンで、「ウルディラウス・シン」のシンが否定の意味をもつことを思い出してくださったのには完全に脱帽です。
この仕込みに気付かれる方がまさかいらっしゃるとは。驚きました、有難うございます……!
●古い薬草の教本という感じの装丁に心奪われました
まさに薬草の教本にある説明図というイメージでした。
デザインとしてボタニカル柄をちりばめたいけど、花柄のエンボスのあるクラフト紙も使いたい、デザインが喧嘩してしまう……、という葛藤への回答が、エンボスを内側にもってきたらいいじゃない、でした。
●村の言葉はどこかの方言を参考にされたのですか?
訛っていればどこの言葉でもよかったんですが、自分の出身の関西弁だとちょっとイメージに手垢がつきすぎているので、北関東~東北あたりの言葉をイメージしたものに色々混ぜた架空の俚言となります。阿呆でダボと読むのは大阪~神戸のあたりらしいですね。
訛りのせいで何を言っているか伝わらないのは本末転倒ということもあり、訛りは幾分かマイルドにしたつもりです。同じ理由でネネトのモノローグも標準語になっています。
●感想フォームの設問「ネネトのこの後」アンケート
この後村に戻るか、街で暮らすか、どう思いますか? という設問だったんですが、いただいた回答、現時点で村と街が半々で拮抗しています。
興味深かったのが、同じ理由で異なる回答が導き出されていたこと。
「街にいたらきっとシドを探してしまうだろうから村に戻ると思う」という回答と、「村にいるときっとシドのことを思い出しすぎてしまうので街に出ると思う」という回答をそれぞれ頂いています。
どちらもそうだなあ、と思えましたし、ネネトの気持ちに寄り添って答えてくださったのがとても嬉しかったです。ありがとうございました。
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●載せる場所のなかったあとがき漫画
感想フォームの後ろに入れるのが躊躇われたくらいには色々台無しな感じですみません。何でも笑って許せる方向けのメタ反省会まんがです……
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